日銀が大規模緩和の修正を決めたことで、住宅ローン金利の行方に注目が集まっている。長期金利の上昇で固定型には上方圧力がかかる。一方で、約9割が契約する変動型は連動する短期金利が変わっていないために影響は限られるとの見方が多い。変動型では金融機関の競争が激しさを増しており、当面は低下傾向が続くことになりそうだ。
日銀は20日、長期金利の上限を0.25%程度から0.5%程度に拡大すると発表した。これを受け、金融機関には「住宅ローン金利は上がるのか」といった問い合わせが相次いでいる。
住宅ローン金利には大きく変動型と固定型がある。変動型は短期金利に、固定型は長期金利に連動する。今回の日銀の見直しで直接的に影響を受けるのは固定型だ。
日銀の発表を受けて21日には長期金利が0.48%まで上昇した。上昇幅は2日間で0.23%に達しており、各行が12月末に公表する23年1月の固定金利は「上げざるを得ないのではないか」(大手行担当者)との声がある。
12月時点で35年固定の「フラット35」は年1.65%。過去に長期金利が0.5%程度だった時期と照らし合わせると、今後2%程度まで上がるとの観測もある。
一方の変動金利は、金融機関が企業にお金を貸すときの最優遇貸出金利である「短期プライムレート(短プラ)」に連動する。短プラはおよそ14年にわたり据え置かれており、影響を受ける変動金利の基準金利は年2.475%で変わっていない。
14年前の日銀の短期金利の誘導目標は0.1%。日銀がマイナス金利政策を撤廃したとしても、基準金利を見直す理由は乏しい。住宅ローン比較サービスを提供するMFSの塩沢崇取締役は「今回の政策修正で変動金利に影響が出ることはない」と話す。
変動型では実際に顧客が支払う適用金利が最低年0.3%前後となっている。適用金利は基準金利(年2.475%)から各金融機関の優遇金利を差し引いて決まる。すでに住宅ローンを契約する人の場合、返済期間中に優遇金利が変わることはないので、基準金利が見直されない限り返済負担は増えない。一方、新規でローンを組む場合、金融機関の優遇金利の見直しで新たに組むローンの金利は変動しうる。
近年はネット銀行が金利競争を仕掛ける形で、メガバンクも人件費や運営の効率化で優遇幅を広げて対抗している。その結果、適用金利が歴史的な水準まで下がってきた経緯がある。このため「もし基準金利が上がったとしても、他行が先陣を切らない限りは上げられる状況にすらない」(大手行)という。
もっとも契約者は変動型のリスクを理解しておく必要もある。多くの銀行では、基準金利が動いても5年間は返済額が変わらない。さらに5年経過して返済額を見直す際に金利が上昇していても、その前の返済額の1.25倍を超えないルールを設けている。日銀が大幅に金利を引き上げる事態になれば、契約者にも遅れて負担がのしかかってくることになる。
(日本経済新聞Webより引用)